人新世は地理学が取り組む課題です。 ドイツの地理学者Ehlersは、早くも2004年に人新世を取り上げています。19世紀から地理学では、人新世に関係する人間-環境-研究が進められているので、地理学は人新世を追究していくべきだと述べています。また、人新世は地理学と生態学、人類学、歴史学の間の相互作用を示すような自然科学と社会科学を横断する新たな連携を生み出すであろうとイェンセン( 2017)は言います。人間-環境の変化の歴史とプロセスを理解している地理学者は、人新世研究の将来をリードする理想的位置にいる(Ellis2017)とも指摘しています。 このページでは、地理学者による人新世に関した研究を紹介します。 |
1.地理学への期待 |
人新世の地理学-地理学への期待 人新世研究に地理学からの取組を期待する2人の研究者を紹介したい。 ボン大学経済地理学研究所で教授を努めたEckart Ehlers Crutzenが人新世を提案した2000年から4年後の2004年に、早くも人新世にテーマとした「Geographie im Anthropozän」と題する論文を地理学雑誌に発表した。そのなかで、ドイツ地理学がコロロギー的な思考と研究方法論に重点を置き、フィールド調査に基づいた地域研究が中心的な役割を果たしてきたことを強調している。その研究は「A.Von Humboldt、F.F, von RichthofenそしてC.Trollらが開拓したものであり、私たちを刺激した」と、E.Wirthの言葉を引用している。 ところが現在、地理学に適合している全体論-総合論的思考が現代社会に幅広く認められているにもかかわらず、ドイツでは大学の地理学(専攻)の閉鎖や地理学専門誌の発刊中止や縮小が見られる。ドイツ地理学では19世紀から、人新世に関係する人間-環境-研究が進められてきたのであるから、地理学者は人新世を追究していくべきだと強調している。 つまり、今日の地理学は、人文地理学と自然地理学が分離し、前者は地域の経済的事象の研究が中心となり、自然地理学は気候・地形・水文などの研究を深化させていることへの、批判が込められているのであろう。彼は2008年には、『Das Anthropozän、Die Erde im Zeitalter des Menschen人新世- 人間の時代の地球』を著している。 マンチェスター大学の地理学者 Noel Castree 彼は、2014年に「The Anthropocene and GeographyⅠ・Ⅱ・Ⅲ」の3部作を著した。Ⅰ部は「The back story」と題し、人新世と惑星限界の議論の起源と推移について解説し、両者とも広範囲の地理学者と潜在的な関連があることを示唆している。Ⅱ部は「現今の寄与」と題し、人新世と惑星境界概念の進化に対して、自然地理学者と一部の人間-環境地理学者がどのように関わりをもったのか、4人の地理学者( Ellis、Lieveman, Lanbin, Lenton)の名をあげて詳しく説明している。彼らは、人新世や惑星境界についての考えを評価し、提案することで役割を果たしたと述べている。Ⅲは「将来の方向」と題し、人文地理学者がこの問題に取り組み始めたことを評価し、新しい世界のための新しい地理学のあり方を問うている。 | ◆Ehlers, E. (2004): Geographie im Anthropozan. Petermans Geographische Mitteilungen, 148, 79-88. ◆Ehlers, E. (2008): Das Anthropozan-Die Erde im Zeitalter des Menschen. Wissenschaftlichen Buchgesellschaft. ◆Castree, N. (2014): The Anthropocene and Geography I: The back Story. Geography Compass, vol. 8(7), 436-449. ◆Castree, N. (2014): Geography and The AnthropoceneⅡ: Current contributions, Geography Compass, vol. 8(7), 450-463. ◆Castree, N. (2014): The Anthropocene and GeographyⅢ: Future directions. Geography Compass, vol. 8(7), 464-476. |
2.初の教科書 |
Mark Whitehead(2014):Environmental Transformation. Routledge,]London この書物は、人新世に関する地理学者による最初の教科書である。出版の目的と意義については、第1章の「導入-人新世における地理学」に詳しく述べられている。その概略を示す。 「本書は、私たちが環境の変化を学ぶ方法を変える必要があるという人新世の事実を前提とする。地質年代に関する「deep times(深部組織)」を研究するためには、隠された記録(化石、岩石と堆積物等)から、地球の歴史を読み解くための科学的技能が必要である。しかし、人新世を研究するには、地質学的上の過去に関するの垂直記録と同様に、進行中の人間と環境との相互作用の記録を横断的にかつ地球の表面全域にわたって検討することが求められている(例えば、生息環境の変化、都市スプロール現象、珊瑚の白化、砂漠化)。また同時に、クルッツェンの概念を真摯に受け止めるならば、人新世は私たちにさらなるものを要求する。すなわち、人間は他の時代を作ってきた勢力とどのように異なるのか、ということを探求するための確かな分析能力が必要とされる。人間は、先行する地質学的時代を形づくり定義してきた勢力と比べて、非常に異なる調査対象である。それらを理解するためには、心理学、人類学、経済学、政治、歴史、社会学、生物学と地理学にまたがってに独特に作り出された分析技能が必要とされる。その結果、過去における環境の性質を理解するためは、地質学的、古生物学的なプロセスを理解することが求められる(例えば、絶滅レベルの出来事、変化する大気の構成や地殻構造プレートの移動)。その一方で、人新世を研究することは、人間行動の原動力、グローバル資本主義の構造、都市化の過程、民族国家の政治的構造、多国籍企業の性質についての問いかけを必要とする」。 「本書の主な関心は、人新世に関連した生態学的変化の過程が環境問題を研究する人にとってどのような意味を持つのかにある。それゆえ、科学者にとっての集合知(衆知)(collective wisdom)は、私たちは新たな地質学時代に生きている(生きていない)ということを最終的に決定づけるのか否かということは、最も重要な問題ではないのである。国際層序委員会は人新世の科学的な妥当性を考慮しているという事実こそが、人間と環境の関係に何か深甚なことが生じているということを示唆する。本書は、人間が果たす役割、及び、関連する社会的、経済的、政治的過程について入門的な説明を行うものである。 本書は、3つの事項について説明する:1)人間がローカルおよびグローバルな環境システムに引き起こしてきた特質と程度を紹介する;2)環境変化を引き起こしているに見える様々な課程;そして、3)人間が自然環境に及ぼす影響に言及するために、何がなされてきたのか、そして、何がなされているのか」。 「本書で取り上げる人新世を取り巻く議論の側面の一つは、その倫理的な含意である。人新世という考え方こそが、あるレベルでは、人間が環境に与えた影響と責任についてトータルに熟考する機会を示している」。 また、地理学の立場から人新世研究に関するアプローチと課題に関して次のような提案をしている。 「Anthropoceneはどこにあるか? 人新世は空間問題であるのかを問うている。空間問題として、それは歴史的でより現代的な含意を有する。歴史的な意味では、どこで人新世と関連する過程が最初に始まったのか。より現代的な意味では、人新世の影響(効果)が異なる場所でいかに異なるものとして経験されるのかについて、重要な問題が生じる。本書が探求する地理学的視点が意味することは、上述した目的は地理学的問題に違いないということである。したがって私が探究する重要な問題は、以下の通りである: 1)人間が環境システムに引き起こした変化は、どのような特別な場所で、最も鋭敏に感知されるのか? 2)環境変化を駆り立てるような種々の過程はどこで入念に計画されるのか? 3)自然環境に対する人間の影響に対処するために何ができ、何が行われているのかは場所によって異なるのか?」 「人新世についての地理的考え方は、一つには少なくとも、環境の変化のグローバルな重要な形式が、非常に異なる仕方で異なる場所と異なる人々に影響を及ぼす点を探究することである」。 | ![]() |
A.S. Goudie & H.A. Villes(2016): Geomorphology in the Anthropocene. Cambridge University Press. これは、地形学の視点からの初めての書籍である。第1章に、「私たちのアプローチ」と題して、この本の目的、構成が記載されているので、それを紹介したい。 人新世と地形学との関係は、これまで深く掘り下げられていなかった。これがこの本の重要な目的の一つである。地形学と人新世が結びつく主な方法は2つある。第一に、地形学(または人為地形学)に対する人間の影響は加速され、複雑になり、人新世の文脈の中でより深刻になる可能性がある。第二に、地形学的プロセスは、世界の生物地球化学サイクルに対する主要な人間の影響が作用する重要なベクトルを提供している。 私たちの目的は、人新世が地形学者にとって重要な問題であること、また、地形学者が人新世の理解と地球システムへの有害な人間の影響に軽減にますます貢献できることを示すことである。 第1章:人新世と人為地形学への導入 | ![]() |
エリス(2017)の論文「人新世の自然地理学」の中で、彼は「地理学は常に人間と環境の結合パラダイムと深く結びついているが、自然地理学者による人新世の受入は、よく言っても熱がこもっていないように見える」と述べ、人新世の課題解決に自然地理学が積極的に取り組むよう強く促している。以下、この論文から、重要と思われるエリスの主張を抜き出した。 ・自然地理学の寄与が比較的低いことは不可解である。用語としての「人新世」の目新しさにもかかわらず、それが表わすパラダイムは地理学者の間で始まったとさえ言われるのに。 ・自然地理学者は人新世を受け入れるためにもっと努力すべきであろうか? この用語は人間と環境の変化の地球規模の連動を体現するようになったが、これほどパラダイム的なつながりが深い学問(地理学)が、これと明確に関連付けられていないのは、違和感があるように思える。なぜ地理学は人新世運動の先頭に立って旗を振らないのであろうか? ・人間の環境関係に関する学究的な議論がアカデミー全体で人新世を再構築する間、傍観者で待機し続けることは、単に地理学が無視されるだけである。人間と環境の変化の複雑な現実を歴史的かつ過程的に深く理解している地理学者は、人新世の学問の将来をリードするのに理想的な立場にありる。人新世が地理学的専門知識の最も重要なコアな領域、つまり地理学がアカデミー全体に大きな影響を与える可能性のある領域に関心を集めていることを考えると、人新世は他にまかせるにはあまりにも重大である。 ・人新世は、地理学者に2つの文化の分裂を乗り越えて、アカデミーの最も統合的な研究者であるという長年の目的を果たすように要求している。それは、自然地理学者にその原点に立ち返り、時間に関してより深く、規模に関してより広い視野で考え、地球システム科学と、地方、地域、地球規模での地球表面プロセスの科学との学問的(そして時には実用的な)分離を埋めることを促しています。人新世は地理学者に彼らが最も得意とすることを実行するよう呼びかけるものである。そうしないことは、画期的な規模の機会を逃すこととなるだろう。 水文学と同様に、地形学、気候学、生物地理学、そして地理学の他の学問分野もまた人新世のなかにある。 ・自然地理学における古典的な下位分野である気候学、生物地理学、地形学、水文学は現在、人間システムとより深くその研究や教育学を結びつけている。 ・急激に変化している気候、酸性化している海、大量絶滅と他の有害な人為的環境改変に広く多数に対応して、自然地理学者は重要な役割を演じる。 ・地球が人新世に深く移行するにつれて、人間界と自然界が切り離せないことが誰の目にも明らかになってきた。 ・自然地理学を前進させるには、人類が地球に及ぼしている継続的な変化において、社会をより良い結果に導くのに役立つ可能性のある知的ツールとして、人新世に取り組むべき時がきている。 | ◆E.C. Ellis (2017): Physical geography in the Anthropocene. Progress in Physical Geography, Vol. 41(5) 525–532
◆ここで述ているている2つの文化とは、第2次大戦後、地理学が人文地理学と自然地理学の分離が広まったことを指す。さらに人文地理学は経済地理学や社会地理学へと細分化し、自然地理学は地形学、気候学、水文学など専門化が進んだ。この2つの分野の壁を取り払って、人新世は人間と地球を総合した研究を求めている。 |
人新世の景観生態学・地生態学 Nadal-Romero & Cammeraat(2019)は地生態学の観点から人新世の考察を行っている。人間の活動が岩石圏、水圏、寒冷圏、土壌圏、生物圏と大気圏に影響を及ぼしていることは明白であり、地球のすべての主要な生物地球化学的循環を変更して、人間は人工改変景観とよばれる新しい景観を生み出し、あるいは変形してきたと述べ、このような景観の変化に着目して人新世の研究を行った。人新世第3ステージに生きるわれわれは、人間も自然の一員であるとの認識に立って、地球に対するエコロジカルな対応が求められており(篠原 2018)、地球環境の危機的状態をいかに改善していくかが問われている。その解決策の一つは、人工改変景観にメスを入れて豊かな生態系を保全・再生し、自然への人間の圧力を軽減していくことである。景観を対象として、その自然景観を形成する因子(気候、地形、水、土壌・岩石、動植物)と人間社会の関係を生態学的に考察する景観生態学は、第3ステージにおいては、まさにこれに適った学問分野であると言える。 かつて私は景観生態学者が土地利用計画や農村整備計画において、地域の生態学的関係を重視した鑑定を行い、それが実際の計画・実践に活かされた事例を紹介した。地理学者のバウアーが行った土地利用計画のための景観生態学鑑定である(横山1983)。 それはドイツのジュッセルドルフ近郊のメアブッシュ市(人口約5万人)が都市化によるスプロールを防ぐことを目的にしたものである。バウアーは、地形、水、気候、土壌、動植物などの個々の地因子を分析した後、それらの相互作用を推察するなどして、生態学的空間区分へと進み、空間単位の生態学的診断を行っている。同時に、景観の負荷限界と関連させながら環境の質、自然収支の妨害要素と工学的介入の影響を明らかにしている。8つに区分された生態学的空間では、それぞれの原始の状態、現在の状態、現在の生態学的機能、景観生態学的観点からの土地利用計画への提言がなされている。そして最終的に景観診断図を作成し、景観生態学的に価値ある地区、自然保護とすべき地区、景観保護地区、ビオトープ再生地区、ゲレンデ気候改善のための緑地帯、住宅建設適地などを区分して彩色している。この鑑定を基に、市は土地利用計画を策定している。例えば、自然保護とすべき地区に指定されたライン蛇行後の一部は、蛇行後全てを自然保護地区として拡大した。その理由として、自然の動植物の生活場所を維持・育成すること、低ライン地方の特徴的な蛇行河川とその美しい景観を保全すること、さらに地史的・郷土史的観点からライン川の流路変遷の記録として重要である点をあげている。さらに、この蛇行跡を横切るアウトバーンの建設計画があったが、市の要請により、この区間は地下トンネルとされている。市は景観計画の目標として、人間に適した環境の創造と保全を掲げ、景観の自然特性を維持できる地域づくりを進めたのである。ここに、景観収支や景観生態系の分析によって景観の自然特性を明らかにする景観生態学が活かされているのを見ることができる。 2020年に EUでは、「EU自然再生法」が決議された。これは地球温暖化と生物多様性の観点から湿地や河川の自然回復・再生を図るものでる。メアブッシュ市の事例は、自然との共生が重要視される土地利用計画であったが、これは、人新世第3ステージを先取りしたものであると言える。地形改変による地球の負荷を軽減させるには、生態系を重視した土地利用への転換、自然景観の保護・再生を行うことであるが、それには景観生態学観点からの考察と提言・実践をしていくことが重要である。現に、ドイツでは湿地再生計画に地生態学者が活躍している。 | ![]() メアブッシュ市の環境報告 ライン川の左岸の蛇行後が全域自然保護地域に指定された。 ◆篠原雅武(2018): 人新世の哲学。人文書院。 ◆横山秀司(1983):地域計画への景観生態学の寄与-西ドイツ・メアブッシュの地域計画。地理、Vol. 28(8)、29-37。 |
スペインの地理教育学者 Jesús Granados-Sánchezは、地理教育には人新世における持続可能な地球の現在と未来に対する役割があると主張している。以下はその概要である。 人新世、つまり人間の時代は、人間活動による地表の状態の変化を特徴とする地質学的時代として議論されている命題である。人新世は、自然と人類の二元論に取って代わる全体論的概念であり、人類によって起こされた一連の環境影響の合計が気候変動を超越し、人類と惑星の未来に深刻な危険をもたらすという、共進する社会-生態学的システムの概念を発信している。 人間開発に関する新しい報告書は、人々はもはや以前のように物事を続けることができず、直面している課題への答えを提供するために開発の概念そのものを再構築する必要があると主張している。人新世の複雑さを乗り越えるために、人類は種として自らを改革し、変革する能力を持つべきだ。この危機の解決策は、危機を引き起こした人々とは異なるアプローチや視点から模索する必要があり、したがって、持続可能性を可能にする観点から世界を観察し、世界に存在することを学ぶ必要がある。 地理学は、人間と環境の相互作用を研究する長い伝統を持つ学問であり、持続可能な生活を送り、それに応じて行動する方法に関して批判的思考を発達させることができる。地理学は、持続可能な開発の研究において特権的な立場にある。なぜなら、地理学は、相互依存的な地球規模の世界の複雑さを理解するために、膨大な知識を結集する可能性を秘めた数少ない学問の一つだからである。地理学という科目は、範囲が広く、グローバル化と全体論的なアプローチを持ち、空間、場所、地域、地球全体との関連で総合的な見解を提示するという特徴を持っている。これらすべての特性は持続可能性の研究にとって重要な側面であり、地理学は持続可能性の科学とみなすことができる。 地理について学ぶことは、地球上で起こる相互作用とプロセスの全体的な理解を提供することに加えて、それを可能にする「地理的想像力」を構築するための批判的かつ創造的な思考の発達を可能にする。地理的思考は、すべての市民が持続可能性を達成することの複雑さを理解し、より持続可能な未来を達成するために何ができ、何をすべきかを考えることができるようにするために重要である。 地理教育を再考して持続可能性に向けた変革能力を強化するのは今が適切な時期である。地理学の分野は人新世で果たすべき重要な役割を持っており、現在と未知の未来の両方のニーズを満たす持続可能性教育を開発し、再形成する必要がある。 | ◆Jesus Granados-sanchez (2022):Sustainability. 14(8), 1-23 |
インスブルック大学の地理学者F.Allerberger と J.Stötter は、「層序学を超えた人新世– 科学と大学の規範的責務に向けて」と題する論文を発表し、人新世時代における大学教育の改革を訴えた。iaかはその要約である。 彼らはまず、「人新世は、人類が地球規模の推進者および設計者ではないにしても、その一つになったという事実によって特徴付けられる」と人新世を概念づけ、「地球システムへの介入がますます激化しており、全人類の将来に疑問を投げかける課題が生じている」と述べている。この危機的状況を克服するには、「包括的な社会生態学的変革を通じてのみ可能である」と指摘している。 人新世では、「統合的な取り組み方だけではもはや十分ではなく、学際的または変革的な研究実践が求められている」と強調している。 そして。21世紀のキーワードは「持続可能性」であることをあげ、 「持続可能な開発のための教育(ESD)は、21 世紀の主要な課題を克服する上で、重要な役割を担っているという点については、国際レベルでも国内レベルでも、また数多くの科学出版物(もコンセンサスが得られている」と述べている。 この具体例として、ユネスコ (2012: 2) の報告を示している。「持続可能な開発のための教育は、すべての人間が持続可能な未来を形作るために必要な知識、スキル、態度、価値観を習得することを可能にします。」さらに、2022年のベルリン宣言(ユネスコ2022:3)は「持続可能な開発のあらゆる側面の相互関連性を認識するESDに関する総合的な視点を維持しながら、ESDがあらゆるレベルの教育システムの基礎要素となり、環境と気候変動対策がカリキュラムの中核となるようにする」と、さらに一歩進んでいると強調した、 次に、公立大学のためのオーストリア国家開発計画 (BMBWF 2019: 28-29) を取り上げている。これには、「大学は、将来のリーダーや意思決定者に対する教育とリテラシーを目的とする機関として、Grand Challengesと持続可能な開発目標(SDGs)によってもたらされる課題(気候変動、食糧安全保障、エネルギー供給、資源不足、生物多様性、人口動態の変化、社会保障、移住など)を考慮して、学生に適切な問題解決スキルを身につけさせる義務がある。したがって、持続可能性の原則を教育・研究の内容や知識移転のプロセスに統合することは、重要な意識向上の課題である」と規定されている。 これは、オーストリアの公立大学においては、大学学位プログラムのすべての卒業生が「人新世のためのリテラシー(読み書き能力)」または「21世紀のためのリテラシー」を確実に習得することを目的とした、新しい一般教育講座Studium Generaleにおける中心的な要請であることを表している。 したがって、「高等教育機関の社会的責任は、一方では人新世に起因する具体的な大きな課題の認識、他方ではそれを克服するための基本的な問題解決スキルの習得をしていない高等教育の卒業者を出さないようすることである」と強調している。 「現在、教育はこれまで以上に、これらの課題に対処するための知識とスキルを学習者に提供するだけでなく、他者や地球そのものに対する敬意と責任を植え付ける価値観を促進するという重要な役割を担っている」とまとめている。 | F.Allerberger & J.Stötter (2022):DIE ERDE. Vol. 153(3). |
人文地理学と自然地理学の統合を訴えているA. S. Goudie(2017)は、人新世に触れて、以下のように指摘している。 人間の影響は非常に重要であるため、2000 年初頭、Crutzen と同僚 (例: Crutzen 2002、Rockstrom et al. 2009) は、地球の歴史における新しい時代を表す名前として「人新世 (Anthropocene)」という用語を導入した。これは、人間の活動が「地球システムの機能に影響を与える上で、自然の偉大な力に匹敵するか、それを上回るほどに深く広範囲にわたるようになった」時代である (Steffen 2010、444)。彼らは、過去300年間で、完新世から人新世に移行したことを示唆した。 しかし、人新世がいつ始まったのかについては大きな議論が行われており、これには考古学者や歴史地理学者からの貢献も関係している。初期の人間は、火の使用や野生動物の狩猟などのプロセスを通じて、大きな環境変化を引き起こした。広範囲にわたる人間への影響の深い歴史に注目が集まっている(Ruddiman et al.2015)。 ロックストローム(2015)の「人新世は、コペルニクスの地動説やダーウィンの進化論と並んで、科学的努力から生まれた世界観の最も重大な転換の一つである」という見解を受け入れるならば、人新世への地理的貢献をより十分に展開することが重要である。 多くの人文地理学者(Castree 2014a、2014b、2014c)や生物地理学者(Ellis 2011など)と同様に、地形学者(Goudie and Viles 2016など)が人新世の研究に貢献している。地球規模の大気および水文学的プロセスの変化によって引き起こされる土地被覆(land cover)の変化とそれに伴う移動の多くは、地球上ではこれまで存在しなかった新しい(非類似)植生や動物相を生み出している(Young 2014)。人新世における野生生物は、地理学者にとって主要な研究分野となっている(Lorimer 2015)。 さらに、都市環境を含む他の新しいエコシステムも作られた (Franciset al. 2012)。その結果、生態学、地理学、計画学、社会科学を統合する学際的な活動である都市生態学(Wu 2014)が主要な研究分野になった。都市部は人、インフラ、商業の中心地であり、膨大な資源を必要とし、環境に強い圧力をかけている。都市部は、住宅の水使用量の約60%、エネルギー使用量の75%、産業目的で使用される木材の80%、人間による温室効果ガス排出量の80%を占めている。Haase 等は(2014、414)は、「都市のエコシステムがどのように機能し、どのように変化し、そして、そのパフォーマンスを制限するものが何なのかを理解することは、ますます人間が支配する世界における生態系の変化とガバナンスの理解に貢献する可能性がある」と述べている。 | Andrew S. Goudie(2017):The integration of human and physical geography revisited, The Canadian. Geographer, 61, 19-27. |