人新世を生きる

 

 今日、地球温暖化により、巨大台風・洪水・山火事の発生、海水面の上昇、氷河の縮小、永久凍土の融解など急速に進んでいます。また、土地の乱開発、森林伐採、プラスチック汚染、海洋資源の乱獲は生物多様性を低下させています。私たちの将来の生活が危ぶまれています。

 人新世第3ステージに生きる私たちは、持続可能な地球の未来に向けてどのような行動をしたら良いでしょうか。私たち一人一人が地球システム(ジオエコシステム)の一員であり、私たちの行動一つ一つが地球システムにつながっていると考えれば、地球を愛する(Geo Philia)意識をもって、行動をしなければならないと考えます。
 
目次:1.地球温暖化に対する国際的動き  2.洪水を防ぐ-川の自然再生化  3.EUの自然再生法  4.生け垣の再生  
           5.ゴータの小さな森 6.湿地の価値
 
 
 
 1.地球温暖化に対する国際的動き;気候変動、生物多様性、環境問題への取組に関する条約
 

気候変動に関する国際連合枠組み条約(UNFCCC)

 
1995年 第1回締結国会議(COP1)ベルリン:
     2000年以降の検討課題など定めた。
1997年 COP3京都:地球温暖化防止会議。先進国に温
     室効果ガスの削減を促す。京都議定書。
2015年 COP21パリ:産業革命以降気温上昇を2度未満
    に、可能であるなら1.5度までに抑える。2050
    年までに温室効果ガスの削減を実質0にする。
2021年 COP26グラスゴー:1.5度の目標の実現する。
    石炭火力を段階的に削減.気候変動に対処するた
           めの行動を起こす際、すべての生態系(森林、
    海洋及び雪氷圏を含む)の本来のままの状態に
    おける保全及び生物多様性の保全(「母なる地
    球」として一部の文化によって認められるも
    の)を確保することの重要性に留意し、並びに
    「気候の正義」の概念の一部の者にとっての重
    要性に留意( 環境省暫定訳)。
2024年 COP29バクー:先進国からの年間拠出金を2035
    年までに少なくとも3,000億ドルに増やす。
 
気候変動に関する政府間パネル (IPCC)
 
1988年 国連環境計画UNEPと世界気象機関WMOにより 
    設立。各国政府に対し各国政府に対し、気候変
    動に関する科学的基礎を提供することを目的。
    数年おきに地球温暖化に関する「評価報告書」
    を作成、公表。
1990年 「第1次評価報告書」:人為起源の温室効果ガス
    は気温上昇を生じさせるであろう。
1995年 「第2次評価報告書」:人為的影響が全地球の
    機構に現れている。
2001年 過去50年間に観測された温暖化の大部分は、温
    室効果ガス濃度の増加によるものだった可能性
    が高い。
2019年 「第4次評価報告書」:我々を取り巻く気候シス
    テムの温暖化は決定的に明確であり、人類の活
    動が直接的に関与している。
2014年 「第5次評価報告書」:人間の影響が20世紀半
    ば以降に観測された温暖化の支配的な要因であ
    った可能性が極めて高い。
2021年 「第6次評価報告書:人為起源の気候変動は、世
    界中の全ての地域で、多くの気象及び気候の極
    端現象に既に影響を及ぼしている。熱波、大雨、
    干ばつ、熱帯低気圧のような極端現象について
    観測された変化に関する証拠、及び、特にそれ
    ら変化を人間の影響によるとする原因特定に関
    する証拠は、第5次以降、強化されている。

国連生物多様性条約締結国会議

2010年 COP10 愛知目標:自然の生息環境の損失を少な
    くとも半減させ、今日、世界の陸地月面積の
    10%未満である自然保護区を2020年までに
    17%まで拡大する。
2022年 COP15 昆明・モントリオール目標:生物多様性
           の維持に重要な陸域・海域のそれぞれ30%の保
    全を目指す。河川や湖沼などの内陸水域につい 
    ても少なくとも30%を保全する。 
 
国際プラスチック条約(The Global Plastics Treaty)
 
 2024年を目標に、国際的なプラスチック規制の枠組みを作ることを目指す条約。
 
 2024年 釜山:約100カ国の代表が参加した初めての会議開催したが、合意なしで終了した。
 
  2.洪水を防ぐ-川の自然再生化
 
 1989年、私は「西ドイツ農村におけるビオトープの保護・再生」と題して発表した。これは、農地整備事業や化学肥料・農薬投下などによって農村の自然が犠牲になってきたという反省に立って、農地整備の際に、ビオトープの保護・再生した地域の二三の活動を紹介したものである。その一つは、農地整備の際に、川筋まで利用されていた農地を約100m幅を自然再生化のために開放したもの。また、人工的に直線化されていたエムス川を元の蛇行河川に戻し、かつ農地を潰して約10ヘクタールの湖をつくるという自然再生化の事業も紹介した。生物多様性が課題となっている今日、このような自然再生化事業がドイツのみならずEU全体で進められるようになった。
 次に紹介する事例は、2023年12月に発生したドイツの洪水と自然再生化に関する、Riffreporter News、2024年2月19日配信の「Konsequenz aus Hochwasser: „Auen kann man nicht mehr als Ackerland nutzen“」を、簡単にまとめたものである。
 
 2023年12月 ニーダーザクセン州のアラー川など3河川で洪水が発生した。その原因の一つは、過去の河川改修により堤防で囲まれて直進化されたことである。判断限の湖や湿地は埋め立てられて耕作地に転換した。氾濫原の技術的な再構築により、極端な降雨時には、以前のように水が氾濫原の幅全体に分布しなくなり、水位が急速に上昇する。下流の堤防が十分に高くないか決壊した場合、川は氾濫し災害が発生する。
  気候変動は、より強い干ばつとより強い洪水をもたらす。水文学者は、自然を基盤とした解決策を最終的に全国的に実施しなければならない。つまり氾濫原の景観を回復しなければならないことを要求した。かつての川の領分を復活させる川の自然再生化である。
 ドイツ全土で、すでに同様のプロジェクトが多数行われている。しかし、エルベ川やハヴェル川下流域のような非常に大規模なプロジェクトは、再自然化されているが、部分的である。
 EUのいわゆる「水の基本方針」は20年以上にわたってこのような変革を求めてきた。また、2013 年の夏の大洪水の後にドイツ連邦政府と州政府が開始したプログラムも同様である。しかし、これまでのところ、圧力も資金も、実際に大規模な変化をもたらすには十分ではなかった。 2月末にEU議会で可決され、その後加盟国理事会で可決される予定の法律は、新たな勢いをもたらすと期待されている。自然再生法は、EU内の2万5000キロメートルの河川を元の自由な流れに戻し、洪水原を含む損傷した生態系を再生することを目的としている。
   https://www.riffreporter.de/de/umwelt/auen-wie-flussrenaturierung-deutschlands-landschaft-vor-hochwasser-schuetzt
◆横山秀司(1989):西ドイツ農村におけるビオトープに保護・再生。地理、34-8、128-133.
 再録:横山秀司(1995):『景観生態学』古今書院、138-155. 
  (1898年論文を大幅に加筆し、図と写真を加えた)
 
 
 自然再生されたエムス川(1991年)
 
 
 上の写真とほぼ同じ場所のエムス川(1995年)
◆このような川の自然再生化が西ドイツではすでに1980年代に実施されていた。
 
 
 3.EUの自然再生法

  森と湿地は二酸化炭素を吸収し保留することで、温暖化を抑制する効果があり、かつ生物多様性にも貢献する。森と湿地を再生することは、人新世第3ステージにおける地球にとって重要な方策の一つである。 ヨーロッパ連合(EU)では、「自然再生法 Renaturierungsgesetz」が2024年6月に承認された。
 
 これは、国のすべての自治体に対して、損傷を受けた生態系を広範囲で再生することを義務付ける世界初の法律である。海から山林の高地まで、2030年までにEUの表面積の5分の1で自然再生策が開始される。
 また2050年までに、損傷を受けたすべての生態系が自然再生策の恩恵を受けることになっている。これには、例えば、ヨーロッパの25,000キロメートルの川が再び自由に流れるようにすること、湿原を再湿潤化すること、生け垣や果樹園などのビオトープを作ることなどが含まれる。長期的な食糧生産を確保し、気候保護を強化するために、自然再生策を通じて、特に森林や農業地帯に生命が戻る。また、猛暑の増加を踏まえて、都市の緑化も強化される。

 <<a href="https://www.riffreporter.de/de/umwelt/eu-beschliesst-bahnbrechendes-gesetz-renaturierung-geschaedigte-oekosysteme"> 

 

 
 
 
 
 
◆果樹園のビオトープとは、実のなる果樹を植えることによって、実が鳥や小動物のエサとなり、生物相を豊かにする意図がある。
 
◆ビオトープとは、「ある生物群集の生活空間」である。詳細は、横山秀司(1989)「西ドイツ農村におけるビオトープの保護・再生」を参照されたい。
 
 
 
 4. 生け垣の再生
 
生け垣再生
 1980年代以降、西ドイツの農地整備事業は、自然と景観の保護・保全し、育成することを目的としてきた。集落を結ぶ並木道を作り、畑と畑の間の生け垣(Hedge)、池など多数のビオトープをネットワーク化して、村の景観と生態系を豊かにすることであった。
 今日、生け垣は二酸化炭素を保留し、温暖化抑制に役立ち、生物多様性を豊かにすることが明らかにされた。そのため、EUの自然再生法においても、生け垣の再生を促している。以下、その概要を示す。
   メクレンブルク・ポメラニア西部のグラムボウ村の北にある2つの大きな畑の間には、昨年の秋からで新しい生け垣が作られている。州の環境農業大臣は、植え付け中に自ら手を貸し、若い茎のオーク、サンザシ、ヘーゼルナッツを植えた。新しい生け垣の長さは合計500メートルになります。これは、「ヘッケンチェック」と呼ばれるいわゆる「エコロジカルセキュリティ」を購入した寄付者によって支払われた。東ドイツ時代にメクレンブルク・フォアポンメルン州だけでも、6500キロメートルの生け垣が破壊され、大規模な農業地域が形成されたが、今、その生命は戻ってきている。
  チューネン農業機構保護研究所では、「CarboHedge」プロジェクト称した研究が行われている。土壌中にどれだけの有機炭素が貯蔵されているのか、生け垣のバイオマスはどれくらいなのか、また、生け垣の造成が土壌中の腐植土形成による炭素保留、さらには気候保護にどれだけ貢献できるのかを調査している。 その成果の一つは、耕作地に新たに生け垣を植えると、1ヘクタールあたり平均約380〜400トンの二酸化炭素が保留されることを明らかにした。また、1950年代以降、ドイツで破壊された9万キロメートルの生垣が再生されれば、現在のドイツ国内の年間排出量15万人から20万人、または2つのセメント工場を20年間で相殺できるという。(RiffReporter News (2024年8月17日)などを参考にした)。
 
◆ビオトープネットワークに関しては、『景観生態学』(横山1995)pp.143-147.を参照されたい。
 
 
   南独の生け垣のある農村風景
 
 
    道路際の藪化した生け垣
 
 
 5. ゴータの小さな森
 
 ゴータの小さな森:都市の気候のオアシス
 
 EUでは、気候温暖化対策として、さまざまな自然再生が取り組まれている。その一つは、都市の中に森をつくる活動である。今、日本の生態学者・宮脇昭が考案した「小さな森づくり」が広まっているという。2024年11月28日配信のRiffReporter Newsから、ドイツの小都市、ゴータでの取組の一部を紹介したい。

 森林は、CO₂を貯留し、大気の質を改善し、日陰を作り、土壌に水を保持し、洪水から保護するなど、気候保護にとって非常に重要だ。テューリンゲン州のゴータ市(人口4.7万人)では、3年前、休耕地にが植林が行われ、「小さな森づくり」がなされた。これはドイツで最初のいわゆる「小さな森」のひとつである。このコンセプトは、日本の生物学者宮脇昭氏とインドのエンジニア、シュベンドゥ・シャルマ氏によるもので、多くの樹種を狭い地域に密集させて植えることで、生物多様性を促進し、急速に成長する都市の森林を作り出すというものである。
 ゴータには現在、710平方メートルの土地に約2,500本の樹木と90本の低木が植えられている。 慎重に選別され、密集して植えられ、街の真ん中に「都会の原野」が作り出されています。ミニ森林は微細な塵や排気ガスをろ過し、動物や植物の生息地を提供します。しかし、森林が提供するものはそれだけではありません。住民の生活環境を改善し、新鮮な空気を創出し、交通量の多い道路に小さな緑のオアシスを作り出します。ゴータ市は最近、このプロジェクトでテューリンゲン自然保護賞2024を受賞しました。
   <https://www.riffreporter.de/de/umwelt/klima-klimaschutz-klimawandel-lokales-staedte-nachbarschaft-buerger-initiativen
<div> 
 この宮脇方式の「小さな森作り」はオランダ、フランス、イギリスなど12カ国の都市でも行われているという。
 
 
◆宮脇昭(1928-2021):横浜国立大学名誉教授。日本の生態学の第一人者であった。『植物と人間-生物社会のバランス』(1970 NHKブックス)は、代表的な著作であるである。
◆「小さな森づくり」は、ドングリをポットに植えて発芽させた苗を植え付ける。
 
     
 宮脇方式によるコナラのポット苗。
秋にドングリをポットに入れ、乾燥させないように冬越しすると、4~5月に芽が出てきます。これを2~3年ぐらい育成したものを、植え付ける。
 
 6.湿地の価値
 

 EUでは、「自然再生法」が成立し、地球温暖化の抑止、生物多様性への貢献などから湿地の再生・拡大が進められている。しかし、ウクライナ戦争後、湿地の役割が追加された。以下、2024年10月7日配信のRiffrepoterの記事を抜粋した。

 世界中で湿地は猛烈なスピードで破壊されてきた。国連条約は、世界的に重要な湿地を保護することに成功した。しかし、全体としては、泥炭地、沼地、源流、氾濫原の破壊は、森林伐採の3倍の速さで進行している。

 科学者たちは、湿地の下の土壌に何千年にもわたる植物の成長から得られた膨大な量の炭素が眠っていることを発見した。これは、その領域が乾燥すると二酸化炭素として放出される。地球温暖化の原因となっている世界のCO₂排出量の少なくとも4%は、すでにそれによるものであり、これはすべての航空産業の排出量に相当する。

 気候保護に関して言えば、湿地の保全は、石炭火力発電所の閉鎖という目標と同じくらい重要な要素と見なされている。泥炭地には、大気から二酸化炭素を除去する任務さえ与えられている。この目的のために、排水された泥炭地を再び湿らせ、新しい植物の成長を開始するための作業が行われている。

 湿地が新たな光を浴びている2つ目の理由は、世界的に深刻化している水危機である。湿地の生態系は降水量を貯蔵するため、地下水を更新する上で優れた役割を果たしているかが明らかになった。都市にとっては、周囲を冷やすことで巨大なリビングエアコンのように機能する、重要な「生態系サービス」である。

 ウクライナでは、湿地に3つ目の重要な役割が当てられている。軍隊はほとんど進軍できず、野戦キャンプの建設はほとんど不可能で、船や水陸両用車でさえ、ほとんど全く役に立たない。この可能性がウクライナ政府によって本当に認識されたのは、侵攻後になってからである。2022年2月末、ロシア軍が北から首都キエフに急速に接近していたとき、軍事戦略家はまず、氾濫原を氾濫させて敵の前進を阻止するために、キエフの北端にあるイルピン川の堤防に小さな穴を開けた。3月の初めに、水は自由に制御され、巨大な洪水地域が作られました。ほぼ一夜にして修復された沼地の大きな価値が明らかになった。ロシア軍の進撃は停止し、戦車は沼地の地下に沈んでいった。少し遅れて、ロシア軍は進軍を終えた。それ以来、地元の環境保護主義者たちは、イルピン川が軍の戦闘員と同じくらい首都を守る上で重要だったため、イルピン川を「英雄の川」と改名し、湿地として恒久的に保護することを求めた。

 湿地は気候保護、作物の保護、都市の冷却、そして侵略者に対する防衛において、実は非常に重要な味方であることがますます明らかになっている。

https://www.riffreporter.de/de/umwelt/feuchtgebiete-ukraine-krieg-verteidigung-strategie-renaturierung

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
◆日本では、戦前の地形図は大日本帝国陸地測量部が発行していたので、軍湯目的で地図記号が使われた。下の図のように、水田は、兵隊・戦車・大砲が通行可能ま乾田、兵隊・戦車が通行可能な水田、すべ て通行不可能な沼田の3つに分類されていた。
 
      
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
</div>